統合医療とは

統合医療とは、東洋医学と西洋医学を単にどちらも使い得るということをさすのではありません。本学における統合医療とは、「個人の年齢や性別、性格、生活環境さらに個人が人生をどう歩み、どう死んでいくかまで考え、西洋医学、補完代替医療を問わず、あらゆる療法からその個人にあったものを見つけ、提供する受診側主導医療」と定義しています。つまり、統合医療は人間の死生観まで含むものです。

統合医療の必要性

今、医学・医療は大きな歴史的転換期にあります。近来、西洋医学の不十分さを認識した医師達によるCAMへの取り組みが国際的にみられますが、定義や内容に関し、千差万別で実地医家の間に混乱を生じています。

統合医療では、近代西洋医学に加えて、さまざまな伝統医療や補完代替医療の実践的な知識が求められます。すでに、個別の医学や医療については、それらを習得し、関連した国家資格を得るための高等教育機関は数多く設立されてきました。例えば、近代西洋医学に基づいた教育を行う高等教育機関として大学医学部や歯学部、薬学部、栄養学科、看護学部があり、鍼灸学科などもかなり存在します。また、本邦の伝統医療である漢方医学は、文部科学省コアカリキュラムに含まれるようになり、大学医学部で講義が組まれています。しかし、国際的に治療効果が認められているアーユルヴェーダやカイロプラクティックは無視されています。統合医療としてはこれら手技も取り入れて概念の整理をし、個人ごとに健康長寿を達成できるプログラムの研究が必要です。

統合医療学が確立すれば、ナレイティブの視点により、現場の医療/医学は著しく変容することが期待されます。まず、患者と医療従事者の関係が大きく変化します。患者が人間的に疎外されるという現代医療の陥穽を、根本的に打開する端緒が開かれます。医療における複数の理論や学派が相争うのではなく、多様性を認めつつ対話を重ねながらお互いを高めていくための方法論が確立されます。隣接の諸領域の専門分野との交流をより有効に行うことができ、現場の実践に密着した研究法の開発にも結びつきます。

日本には蘭方が伝わる前の江戸時代には漢方しかなく、鍼灸、導引、推手などさまざまな手法が用いられていました。明治時代に漢方などの東洋医学が排除され、西洋医学のみが医療可能となりましたが、民間にほそぼそと伝統医療として伝えられてきました。

日本で医師免許を有する者は漢方、鍼灸を含め、いかなる治療も患者に行えるように制度上なっていますが、実際にできるものはほとんど皆無といってよいです。鍼灸大学などで学び直すことは可能ですが、現在の保険診療体制のもとではコストを考えてもだれもそのような学び方はしません。やはりキャリアアップの形で大学院の教育を提供する必要があります。

当大学院は、実体験をできるレベルの高い統合医療を教え、全人的医療を普及させ、未病を治して健康長寿を達成し、スピリチュアルな対応を含んだ患者の満足する治療の提供など、新しい医療現場を担える医療関係者を育成する点で社会の要望を満たしています。

統合医療に基盤をおいた包括的医療を実践することによって現在の日本が直面している医療に関するさまざまな問題の解決につながる点は多いです。

背景

20世紀に花開いた西洋医学は急性疾患や感染症などの原因究明とともに、その治療を可能にしてきました。しかしその反面、生活習慣病などの慢性疾患、原因不明の疾患、精神的な要素の関与する疾患、再発性の疾患などについては治療に苦慮する例も少なくありません。加えて個々の体質や体調を考慮した治療はほとんどなされていません。

近年の医学研究の急速な進展と医学知識の膨大な蓄積は、それを学ぶのみで多大の時間と努力を必要とします。専門医を目指す医師が集まる大学附属病院や臨床研修病院では、近代西洋医学による標準治療を行えばよい、と考える医師が多くなっています。終末期の患者などではひたすら延命をはかる治療が行われており、あるいは過剰診療によって患者の人間性や尊厳への配慮が二の次にされる懸念もあります。いわゆる難治性疾患やこころの病気に対して患者に寄り添って効果をあげる患者本位の全人的医療は十分とは言えません。そのため、いままでの近代西洋医学による治療では行き詰まりを感じる者もでてきました。

もう一方で、医療技術の進展と高齢化に伴い医療費が高騰し、国家財政を脅かそうとしている現状も見逃すことができません。そのため、各国政府は医療費の削減の問題に真剣に取り組んでいます。特に米国では危機感が強く、その解決策の一つに補完代替医療(Complementary & Alternative Medicine:CAM)を取り入れ、公的医療費の削減を目指しています。

欧米では近代西洋医学の欠点を補うCAMを治療の選択肢として考慮することで、全人的医療を提供する統合医療(Integrative Medicine:IM)の理念が確立されました。特に、米国では、医療機関が統合医療を標榜することが盛んに行われるようになってきており、並行してその教育も高等教育機関でなされるようになっています。

1990年代以降、CAMに西洋医学的アプローチを包含した統合医療が論じられるようになってきました。世界的に統合医療に関心が高まってきていることは明らかで、今まさに医療の変換期であるといえます。

CAMは、1990年代の米国において発展した診療概念であり、その過程において、CAMの理念や診療体系が再評価されてきました。これらの民間医療は、西洋医学とは異なり、伝統的に民間療法として用いられてきた各種の治療法のみならず、祈祷・祈りも含むことがあります。

一方、ヨーロッパにおけるCAMは、伝統的に使用されてきたハーブや民間薬を医療にとりいれていこうというもので、ヨーロッパ諸国では補完医療として比較的広く行われている診療です。

2000年頃より、米国において、近代西洋医学を中心に、CAMやTM(伝統医療)を組み合わせた「統合医療」の理念が提唱されるようになりました。科学的医学と伝統医療の合体したものともいえますが、西洋では「科学的医学に基づく医療+伝統医療」という考え方であり、中国では「中医学+西洋医学」、インドでは「アーユルヴェーダ+西洋医学」というように、どちらを医療の軸とするか、ということで立場が異なり、国際的には、各国の伝統文化や医療制度を反映し、様々な文脈で「統合医療」という言葉が使われています。

日本では明治以来、西洋医学をもって医療の基幹としてきましたが、漢方、鍼灸、按摩など伝統医療も続けられ、日本東洋医学会などで継承されてきました。現在の医師免許制度のもとでは、医師はこれら全ての診療を行える建前になっていますが、実際には極めて少数のものが手技を取得しているにすぎません。また、鍼灸、按摩は別途の教育システムがあり、これら医療者間の交流はほとんどありません。西洋医学を修めた医師などの医療従事者と、補完代替医療(CAM)の施術者との間には、交流がなく、互いの共通言語を持たないために、統合医療の実践における障壁となっています。また、東洋医学は「未病を治す」という保健あるいは予防医学の色彩が強いですが、これも現在の医療体系における取り組みとしては不十分な状態です。

このような背景から日本でも欧米の動きをうけて、2000年前後に、「日本代替相補伝統医療連合(JACT後にIMJに統合)」、「日本統合医療学会(JIMからIMJに改称)」、「日本代替医療学会(「日本補完代替医療学会)に改称」、「国際統合医学会(「国際個別化医療学会」に改称)」、「国際融合医療協会」などが結成され、CAM研究などの報告がなされているが、日本では医学界や行政が積極的に評価をしてこなかったため、さまざまな民間療法が野放し状態となり、いわゆる癌難民などの問題からの被害者もあとを絶ちません。

統合医療教育の必要性

統合医療の実践には、近代西洋医学に加えて、さまざまな伝統医療や補完代替医療の体験的な知識が求められますが、日本にはCAMを総合的に学べる高等教育機関はありません。統合医療学としては概念の形成が不十分な状態であり、更に統合科学としての理論的研究が必要です。

統合医療が確立すれば、患者に寄り添う医療の視点により、現場の医療/医学は著しく変容することが期待されます。患者が人間的に疎外されることの多い現代医療の陥穽を、根本的に打開する端緒が開かれます。医療における多様性を認めつつ対話を重ねながらお互いを高めていくための方法論が確立されます。

当大学院の講座は、伝統ある食養生や漢方医学、インドのアーユルヴェーダ、中国伝統医療(中医学)、ヨーロッパの伝統医療や補完医療、心身相関医療などCAMをとりこむことにより、実体験をできるレベルの高い統合医療を教え、全人的医療を普及させ、未病を治して健康長寿を達成し、スピリチュアルな対応を含んだ患者の満足する治療の提供など、日本の保健医療の新しい医療現場を担える医療関係者を育成する点で時宜を得ています。

統合医療の理念を広め、統合医療に基盤をおいた包括的保健医療を実践することによって現在の日本が直面している医療に関するさまざまな問題の解決につながります。このような時代の転換期に未来社会への展望を持ち、卓越した「人材」を育成することは高等教育機関の使命といえます。

上述しましたように、眞の統合医療は、その上の次元の医療として構築されねばなりません。WHOは1998年WHO憲章のレビューとしての特別委員会報告で「健康とは、完全な肉体的、精神的、spiritualおよび社会的福祉のdynamicな状態であり、単に疾病又は病弱の存在しないことではない」としました。Social/physical/psychological/cultural/spiritualなどの形容詞を同列に列挙することで、健康を総体的にとらえなおしたといえます。日本においては医療におけるスピリチュアリティの尊重は混迷しており、コンセンサスはありません。

日本には、西洋の考え方に加えて、中国やインドの考え方も入ってきており、日本でこそ世界中の伝統医学も含めたCAMを現代医学と融合させて統合医療を生みだす能力があります。本大学院の講座により、次世代の指導者の育成を諮り、国内外の統合医療をめざす組織と、技術、情報を交換し、日本発信の統合医療を世界に広めることが可能となります。これら課題を包括的に学習できる高等教育機関としては、本邦では本講座が最初となります。

教育目標と人材の需要

一般に、統合医療が、近代西洋医学と補完代替医療を組み合わせた医療と考えられているのは、統合医療の実践を臨床からの表面的な視点で捉えるからです。今後は、在宅医療を担当する家庭医を中心に統合医療の理念が広まり実践されるようにならざるを得ません。未病を治すという保健学と臨床医学の壁は低くなっています。またCAM療法を提供する病院も確実に増加しています。

本講座では、そのような要請に答えられる人材育成をおこないます。

日本では、医師の間での専門医志向が強いといわれます。統合医療のあり方を考える際に西洋医学の特定の狭い分野の専門医よりも、地域医療を担うプライマリケア医や家庭医療に携わる医師は、統合医療学の知識を広く学び、統合医療の理念に基づいた医療を実践したいという希望をもっています。特に開業医は多様な患者に接する最前線にいるので、統合医療を学びたいという意欲がつよくあります。病院管理者にあっても若い医師を派遣して学ばせたいという希望は多いです。

看護学の分野ではすでに患者学や統合医療の立場に近い方がいて、統合医療を体系的に学びたいという希望をもっています。鍼灸や薬剤師、理学療法士や作業療法士も同様です。また、管理栄養士、栄養士に関してはCI協会、正食協会、日本綜合医学会のような食養生の学院で学んで指導者になっている方が相当数いて、やはり統合医療の中に食養学を位置づけて活躍したいと希望する方がいます。

統合医療の実施は病院や診療所でつよく要求されています。漢方外来を開設する大学病院も増えつつあります。

今後、高齢者の増加とともに介護や緩和ケア専門の病院や病棟も増えとる見込まれており、そのようなところでは統合医療を遂行することがもっとも患者のためになります。また、厚生労働省は今後、在宅医療に重点をおく方針で、在宅医療で働く看護師も増えると思われますが、そのような場合にも統合医療を学んでいれば看護の質の向上が期待され、人材の需要はつよいです。当大学院の講座修了者はそのような場合に指導者としての人材になります。

統合食養学を学ぶものは健康食品産業やヘルシーレストラン等の方面からの需要が高いです。

学生受け入れ方針(アドミッションポリシー)

近代西洋医学のみならず、伝統医療や補完代替医療の実践に通じた人材の育成が急がれています。また、地域医療や病院におけるチーム医療には「統合医療コーディネーター」としての役割が期待されます。慢性疾患が増え、在宅医療の拡大が図られる中で、限られた医療資源を適正に配分し、多くの患者が恩恵を受けられるようにするには統合医療がもっとも適しています。現在は西洋医療をおこなう医師と漢方(薬局が多い)、鍼灸、按摩などの医療職との交流はありません。これらを体得し、理解できる人材を養成するには高度の大学院教育が必要です。

近年、超高齢社会の到来や疾病構造の変化によって、従来の医学教育では十分に対処しきれない慢性難治性疾患や生活習慣病が増加してきました。また、国民の医療費の増大により、現行の健康保険制度の限界も露呈してきています。こうした時代の変化を受け、近代西洋医学や臨床栄養学を基本に、科学的根拠に基づく食養生法、伝統医療、補完代替医療をあわせて発展させ、全人的医療・個別化医療・患者本位を特長とする統合医療の実践が求められています。

正しい統合医療を実践できる統合医療コーディネーターの育成が喫緊の課題となっているのです。

本大学院大学の当講座では、統合医療の理念に基づく臨床実践に際して、近代西洋医学を基本に、CAMの中から適切な療法を組み合わせられる統合医療実践者および統合医療コーディネーターとして活躍できる人材の養成を目指します。

終了証授与方針(ディプロマポリシー)

全ての教育課程を修了し、教育目標に相応しい成果が認められ、高度専門職としての豊かな学識を有すると判定された者、つまり下記のディプロマポリシーが身についているかを最終確認された者に神奈川歯科大学大学院より修了証を授与いたします。

  1. 高い倫理観を持ち、研究と臨床に必要な諸規則を熟知し応用する能力を身につけている。
  2. 統合医療領域における臨床的課題を発見する能力の育成と同時に課題解決のために、多様な研究方法論を理解し実践する能力を身につけている。
  3. 普遍性のある研究成果を広くパブリケーションすることができる能力を身につけている。
  4. 統合医療領域を横断する幅広い知識に裏打ちされた柔軟かつ俯瞰的な判断ができるマネージメント能力を身につけている。
  5. 地域における医療の課題解決を世界の動向を視野に入れて検討できるグローバルな思考能力を身につけている。

教育実施方針(カリキュラムポリシー)

当該統合医療学コースでは、自立した研究能力を備えた主に高度な専門性を有する人材養成目的に適う教育課程の編成を行います。
さらに臨床統合医療学を体得するためのクリニカルワーク(臨床研修)を行います。

具体的な編成方針(カリキュラムポリシー)として、

  1. 指導的な統合医療実践者およびコーディネーター、研究者に必要な倫理規範を教育し、高い倫理観を備えた人材を育成するための教育を行う。
  2. 統合医療領域おける高度な専門的知識・技能・態度を教育し、学術面で指導的な人材を育成するための教育を行う。
  3. 研究成果を公表する手法を教育し、高いパブリケーション能力を育成するための教育を行う。
  4. 研究過程において生じるあらゆるデータ(以下「研究データ」という)を適切に管理・保存・運用するための教育を行う。研究データの管理は優れた研究を行う上で必要不可欠であるという認識を醸成する。
  5. 課題に対して柔軟かつ俯瞰的な考え方の基本を教育し、高いマネージメント能力を育成するための教育を行う。
  6. 国際化に対応した語学力や国際的な活動の基本を教育しグローバルに活躍できる能力を育成するための教育を行う。

上記のカリキュラムポリシーと伴に指導方針として、小人数の利点を生かし、コースワークにおける講義は、議論を積極的に取り入れた双方向型の授業を展開します。
さらに実習も少人数で行い、密な指導により実践力を養います。

さらに、クリニカルワークは、各専門分野別に臨床研修を行いますが、症例を用いて統合医療分野の理解を深めるよう指導することで、リサーチワークにおける研究能力の充実を図ります。